2014年 セーリング納め

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2014.12.14

風速 12 m/s

西の風で、ホームポートをクローズで出る。

小連隊が群をなしているような無数の白波が、海原一杯に大挙して待ち構えている。

それに、普段は風があっても波のない海域であったが、今日は波もあった。

この海域は、西以外の三方が山に囲まれている。

そのため海が開けている方向から吹く冬の西風の時だけは別で、

風波は、広い海原を渡って来る間に徐々に波高を増し、

勢いが高まった状態で湾の奥に押し寄せる。

冬は、この海域にも波を呼ぶ。

 

ここに着く途中の箱根の山をほとんど下りたあたりから見える眼下に広がる三島の町は、

冬の澄んだ空気の中でびっくりするほどくっきりと見えていた。

静かに横たわる駿河湾のその横には富士がそびえている。

富士の雪も少しづつ下りて来ている。

静かな海だ、ちょっと物足りないか、とその時は思いながら、

穏やかな日和の中を、下り坂のカーブのインコーナーを攻めながら軽トラを走らせた。

しかしホームポートに着くと、それほど風がないのにヨットのマストが揺れている。

波がホームポートにまで入り込んで、停泊している船を止まらぬメリーゴーランドのように揺らし続けていた。

 

何の波だろうかと思っていたが、

沖ではいい西風が吹いていたからなのだと海に出てみて分かった。

それほど寒くないが、すでに冬になっている知らせが海には届いていた。

計測してみると瞬間では12 m/s を超えていた。

駿河湾を眼下に見た時は静かな海だと思ったが、遠方からでは分からなかっただけのようだ。

景色がくっきりしている時は、風が強いということを忘れていた。

 

久し振りにメインセールをツーポンにリーフした。

バウが波を叩いてスプレーが頻繁に吹き上がる。

船は、ヒールしながら小連隊の中をかき分け、

時折ふいのブローにあおられながらも、向い風の中を力強く切込んでいく。

 

慣れぬ揺れでゲストの体調が思わしくなく、早めに切り上げることにして、徐々に進路を風下に落とし、アビームでしばらく帆走した。

7ノット以上は出ている感じだ。

ジャイブして舳先をホームポートに向ける。

ランニングになり、船が波でローリングする。

後ろからの大きめの波で持上げられたスターンが、波の斜面を滑り落ちて、船はラフする。

波の方が船より少し速い。

波がミッドシップを超えると、シーソーのようにしてスターンが落ち、舳先が上がる。

スターン側が、今度は波の後ろの斜面を滑り落ちて、船はベアする。

追い越す波の一山ごとに船はラフし、そしてベアを繰り返す。

船の進路は、波に翻弄されながらも目的地を目指す。

真上りの時も風に向かって45度までしかのぼれないから、一見見当違いの方向に進んでいるが、

目指すものを失っている訳ではない。

志をもって生きているつもりだが、いつも遠回りしている我が身が船に重なる。

そうしか進めないのだ。

進路を維持しようとティラーを引く手に力が入る。

ティラーを波に合わせながら、ホームポートを目指した。

 

2時間位ではあったが、充分に風を堪能した。

今年のセーリング納めにふさわしいものだった。

ホームポートに戻り、相棒がクリームソースのスパゲティを作った。

ワインも持って来ていた。

海にヨットに風に仲間に 乾杯!

 

相棒は、来年の夏は3週間の休暇を取る、と船に約束した。

御蔵島あたりでイルカと泳いでいることを夢想してみた。

来年は、どんなセーリングが出来るだろうか。